人気ブログランキング | 話題のタグを見る

植野稔の自然遊悠学 イワナだ! ヤマメだ! 山菜だ! きのこだ!!

yuyugaku.exblog.jp
ブログトップ
2011年 03月 07日

1419 渓流賛歌

第七話 50cm.の大イワナ 我が憧憬の八久和川 山形県朝日連峰

北海道、本州、四国、九州、主要日本列島山岳部の地形図に記された、ブルーマーキングが3000余に達した頃、足繁く通い続けた渓谷が八久和川だ。
25000分の一地形図、四枚つなぎ合わせなければ魚止滝に到着できない、北の黒部と呼ばれている。長大な八久和川は山形・新潟両県にまたがる、ブナ原生林に覆われた大朝日岳を水源とする未開の剣谷である。
イワナ熱中過程における釣り人の志向のなかで、数より質に変わる時代がある。大物への強い憧れがこれにあたる。
1419  渓流賛歌_d0134473_16572863.jpg

挿絵 奥田営子

こだわりはまだある。イワナには海、ダム湖から遡上する白い斑紋が特徴の、のぼりイワナ。渓流の奥地に棲んでいる、赤い斑紋が体側にある、いつきイワナがいる。私は渓流に生まれ渓流で育った、いつき大イワナを釣ることに、人生の大半を費やした。
「大物なら八久和だ。竿をへし折る大イワナがいる」八久和をテリトリーとしたイワナ職漁師から口伝された、夢の50イワナを求めて八久和川へ単独釣行を記す。
「大イワナが浮上したとき」これが大物を手にいれる、最初で最後のチャンスだ。大物魚が動くには30cm.以上の増水が決めて、その溪水の引き際に狙い定めるしかない。
「女心と秋の空」「秋の三日天気」いずれも秋の天気は崩れやすい、天気の格言。そこで恒例になった秋の最中、八久和詣を開始した。
三日降り続いた雨がやみ八久和は二尺も増水、濁流は大岩を簡単に移動させ、ズシンズシンと不気味な鈍い音を響かせている。「奴は動く。明日が大イワナのラストチャンス」単独行にとって、雨はつらくせつない。それでも大イワナ浪漫のため、一日おにぎり2個の貧食でも我慢できる。
1419  渓流賛歌_d0134473_16583491.jpg

挿絵 奥田営子

八久和入りしてから6日目、減水気味の渓谷を泳ぐように遡行。目的地は大物魚が潜んでいる大淵。長竿に手元まである仕掛けをつくり、ドバミミズを針につけフッシュオン。
「きた、動かない」大物の証拠だ。奴はあおり上げたロッドに動じることなく、止まったまま静かにしている。その時、奴の棲家に逃げ隠れする引き込み。竿は穂先まで水中に没する。あわてることなく仕掛けを送り込む。
八久和の潜水艦は誇らしい魚体を浮上させ、そのたくましい雄姿を私に見せてくれた。


数年前、共同通信社依頼による渓流賛歌エッセイ13編を各地地方新聞に連載。
このたび新聞著作権失効となった。
今日から13日まで渓流エッセイ連載を開始いたします。
新たに挿絵を奥田営子さんに描いていただきました。
文は生原稿です。
ご笑覧ください。

by yuyugaku-ueno | 2011-03-07 16:59 | メディア


<< 1420 渓流賛歌      1418 寒の戻り >>