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植野稔の自然遊悠学 イワナだ! ヤマメだ! 山菜だ! きのこだ!!

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2008年 03月 01日

55   コウシンソウ

 高山植物コウシンソウ

路傍、あるいは山道を歩けば、大小の花々に出会える。花をみて不快な気分になる人は皆無にちかい。多数の人は心が和み癒される。
 自分自身の沢歩き、山歩きのなかで「ホォー」と一息いれる瞬間が魅力の高山植物に幾度も感動した記憶がある。山を広義に解釈すれば山頂を踏む登山、ピークからの展望を目的とするトレッキングの常道とはずれ、花の群落地を訪ねる登山者もいる。
 「高山植物」とは氷河期の終了に伴い、高山に北上した植物。あるいは高山に残存している植物群を指す。
 このコーナーではさほど注目されない、目立つことのない、見逃された「可憐な植物」にスポットをあて、魅惑の高山植物たちを紹介したい。

1 コウシンソウ <庚申草>[特別天然記念物]
 タヌキモ科ムシトリスミレ属
 栃木県庚申山で発見される。
 花期 6月。
 特徴 湿り気のある岩壁に付着する、日本固有の多年生食虫植物。
 分布 関東北部の岩壁帯 庚申山・男体山・袈裟丸山など。

屏風のような衝立岩が並んだ庚申山、古来より険しい山岳地を対象にした山岳信仰が行われ、修験行者を先達にして、庚申講が奇岩あるいは岩場を縫うように踏拝路を巡行した。
 庚申講一行の辿ったコースにコウシンソウは自生し、岩壁にしがみつくように根を張り、花茎を伸ばし先端に1センチ前後の紅紫色の花をつける。花の下唇には腺毛があり粘着液をだして虫を捕らえる。
 珍しいのが花のつき方だ。花茎の先に、ちょうちんを吊り下げた格好がユーモアたっぷりで面白い。また、極めて限られた岩場の特殊な条件下のみ自生することが許される、希少価値のある可憐な高山植物のエリートであろう。

6月中旬、庚申川イワナ釣行のあいまに、コウシンソウを撮影にきていた登山者から、自生地を教えてもらったおかげで、想いもよらない出逢いに期待しながら山道を歩く。
 庚申山荘は大きなロッジ風の無人小屋。背中にノコギリ状の岩壁が威圧する位置に建っている。水場もあるので登山、マイタケ採り、バードウォッチングの際に、のんびりと自炊しながら泊まってみたくなる山小屋だ。
 いの一番に山荘の左手にあるクリンソウが出迎えてくれる。この赤い花が満開なら、目的のコウシンソウも開花しているに違いない。
 愛用の携帯ガスに火をつけ、即席みそ汁とアンパンで遅い朝飯を済ませ、早々にベンチを立つ。
ひと汗かいたあと杣道に入り、教えてもらった岩壁下に着く。コウシンソウはどこにあるのか? オーバーハングした岩場を見上げても、それらしい花は見当たらない。あるのは満開となったユキワリソウのみが、真紅の花弁を輝かせているだけだ。
 “日陰を好む”物の本に書いてあることを思い出し、木立で影になった奥の岩へ向かうと、目の前に小さな紫色の花があった。たった一輪コウシンソウは静かに恥ずかしそうなそぶりで咲いていた。あたかも私を待ち兼ねていたような気がした。


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by yuyugaku-ueno | 2008-03-01 15:27


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