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植野稔の自然遊悠学 イワナだ! ヤマメだ! 山菜だ! きのこだ!!

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2011年 03月 03日

1412 渓流賛歌

渓流エッセイ

第三話 身の毛も凍る無人小屋 四国石槌山

山から山、渓から渓へと渓流を歩くさすらいのマイカー旅が続く際、当然一日のネグラを探すことになる。
「快眠こそ明日への活力」これが私のモットーであり、当日の疲れはその日にとらなければ、およそ一ヶ月に及ぶ長期遠征釣行に支障をきたす。
自宅同然の快適睡眠を得るには木賃宿がベストだ。しかし、経費が必要。そこで宿代わりに自前のテントが登場する。原則として四つ手タイプの簡易テントで寝ることが多い。どこでも自由に設営可能なテント生活もまんざらでもない。
「雨がふってきた」こんな場合、緊急避難と銘打ち無人小屋に泊まることがある。廃屋、炭焼小屋、造林小屋、山小屋などの無料宿を利用する。
これまでに泊まった無人無料宿での夜中、仏壇、位牌が放置された荒れ民家での夜半、その家の先祖様の霊魂にたたられ金縛りにあい、あわてて車に逃げ帰ったことがある。

信仰山岳霊場、石槌山。古くから石槌講が各地の登拝路から先達者に引率され、霊地巡行を実施されていた。
石槌山登拝路のひとつ険谷、極印本谷。大ゴルジュ帯を秘める渓谷の奥へアマゴ釣りに向かった。一日では踏破できないので、常住院無人小屋に宿泊することに決めた。
入り口に賽銭箱、行者寄進の酒の張り紙、荒縄に結ばれたおみくじ、注連飾りの紙が谷風にあおられ騒がしい。拝所なので院が開放されているから落ち着かない。あいにくの強雨、トタン屋根に激しく雨音がたたきつける。幸い引き戸の奥に囲炉裏があり、板の間にウレタンマットを敷き寝袋を広げ今宵の宿とする。
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挿絵  奥田営子

常住院に闇がやってきた。明かりはヘッドランプのみ。その時だ。神棚にお供えされている団子を狙う狸の泥棒がやってきた。屋根裏のネズミも動き出す。時折、納戸を叩く狐らしい動物もいる。夜中の山小屋は野生動物の運動場に変身、眠れる状態ではない。明かりをつければ一時、休戦になるが消すとまた騒がしい。雨はやんだが微風が注連飾りを揺り動かしている。厄介なのは風のうねり音が人声に聞こえ寝付かれない。
こうして悪夢は夜明けまで続き、一睡もできぬまま朝を迎えた。
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挿絵  奥田営子

数年前、共同通信社依頼による渓流賛歌エッセイ13編を各地地方新聞に連載。
このたび新聞著作権失効となった。
今日から13日まで渓流エッセイ連載を開始いたします。
新たに挿絵を奥田営子さんに描いていただきました。
文は生原稿です。
ご笑覧ください。

by yuyugaku-ueno | 2011-03-03 17:27 | メディア


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