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植野稔の自然遊悠学 イワナだ! ヤマメだ! 山菜だ! きのこだ!!

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2011年 03月 02日

1411 渓流賛歌

渓流エッセイ

第二話 白蛇を守る鉱山師 栃木県男鹿山麓の怪

福島・栃木県境に白煙がなびき、名山の誉れ高い那須岳から流れ下る那珂川源流へ、イワナを求めて入溪した。那須連峰が活火山ゆえに那須温泉郷を構成し、湯治場を老若男女に提供する温泉のひとつ、板室温泉が私のお気に入りである。
「イワナおいていけ」威勢の良い温泉宿の板さんからの注文に応じてくれる、大川渓流が今回の稼ぎどころだ。
「1尾100円、70でよかろう」7000円あれば一週間暮らせる。イワナとの駆け引きは早朝から10時まで、四本つなぎ二間半、竹竿にテグスを結びエサの川虫でいざ真剣勝負。
「イワナはエサで誘い出し、エサに食らい付かせ間一髪のタイミングで魚を抜きあげる」こんなイワナ釣法が私の流儀である。
淵の落ち込みで2尾、平瀬で1尾。手回し良い竿裁きを繰り返し、イワナ行は順調に推移していた。
その時だ。渓流が迂曲しS字状のゴルジュ出口に竿をだし、イワナのアタリを確かめロッドをあおれば、魚は天に舞った。相変わらず豪快な釣りに内心にんまり。しかし、先方に怪しげな白髪の老人が行く手を阻む。
左手はフラスコ、右手に先端がとがったハンマー、両手と顔に火傷の跡。これまでに山中で出会った山人ではないタイプの山師だ。静かに観察する。フラスコの液を岩石に注ぎかけると白い煙が出る。辺りが酸の異臭が漂う。おそるおそる近寄ってみる。
「何をやっているの?」と尋ねてみる。
「鉱脈や]関西なまりで答える。穴のあいた作業服の出で立ち男の正体が判明した。
山男は一攫千金を狙い、山岳地を彷徨するさすらいの単独鉱山師。私の単独行に共感する部分もあり、話はスムーズにはずむ。
「大阪に一軒家あるで、金鉱山を当てもうけたんや。これも白蛇のおかげや。家の神棚に白へビを飾り、毎日拝んでいる」老人はポケットから巾着袋を取り出し、中に入っている白蛇の抜け殻を見せてくれた。
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挿絵  奥田営子

「あんたも白蛇、拝みなはれ。金運つくで」と別れ際に白蛇の抜け殻をちぎってくれた。
私はイワナ釣りを忘れ、先を歩く鉱山師を見送った。
この事件から40年の歳月が過ぎ、那珂川上流に深山ダムが完成、周辺の環境は一変した。白蛇のたたりか? 相変わらず私は貧乏生活を続けている。


数年前、共同通信社依頼による渓流賛歌エッセイ13編を各地地方新聞に連載。
このたび新聞著作権失効となった。
今日から13日まで渓流エッセイ連載を開始いたします。
新たに挿絵を奥田営子さんに描いていただきました。
文は生原稿です。
ご笑覧ください。

by yuyugaku-ueno | 2011-03-02 18:25 | メディア


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